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性質
1,1,1-トリクロロエタンの融点は−30°C、沸点は74°Cです。揮発性があり、洗浄能力が大きいです。
一般的に1,1,1-トリクロロエタンは、非極性溶媒に分類されています。しかし、電気陰性度が大きい3個の塩素原子が、分子の片側に偏って存在するため、極性をわずかに有します。
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解説
トリクロロエタンとは、分子式がC2H3Cl3で表される有機ハロゲン化合物です。
塩素原子の位置によって、1,1,1-トリクロロエタンと1,1,2-トリクロロエタンの2種類に分類されます。別名、1,1,1-トリクロロエタンは、クロロテンやメチルクロロホルムとも呼ばれ、常温で無色の液体です。
ヒトの皮膚や目に対して刺激性を持ち、労働安全衛生法で「名称等を表示・通知すべき有害物」に指定されている他、PRTR法で「第一種指定化学物質」に指定されています。
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構造
1,1,1-トリクロロエタンと1,1,2-トリクロロエタンは構造異性体の関係にあり、いずれもの炭素原子に結合している4つの水素原子のうち、3つを塩素原子で置換した化合物です。
1,1,1-トリクロロエタンの示性式はCH3CCl3で、分子量は133.40、密度は1.34g/cm3です。
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合成法
図. 1,1,1-トリクロロエタンの合成
工業的に1,1,1-トリクロロエタンは、 原料であるクロロエチレンから、2段階で合成可能です。まず、塩化アルミニウム、塩化鉄 (III) 、塩化亜鉛などを触媒に用いて、20〜50°Cでクロロエチレンと塩化水素の反応によって、1,1-ジクロロエタンが生じます。続いて紫外線の照射下で、1,1-ジクロロエタンと塩素が反応すると、1,1,1-トリクロロエタンを得ることが可能です。
収率は80〜90%程度で、発生した塩化水素は再利用できます。構造異性体の1,1,2-トリクロロエタンが、主な副生成物として生じますが、蒸留で分離可能です。
また、触媒に塩化鉄 (III) を使用して、1,1-ジクロロエテン (塩化ビニリデン) と塩化水素が反応すると、少量の1,1,1-トリクロロエタンが得られます。
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使用用途
1,1,1-トリクロロエタンは、様々な有機化合物を溶かせるため、電子部品の洗浄や塗料の溶剤などの用途で、有機溶媒として広く利用されていました。しかし、モントリオール議定書で層破壊物質として指定されて以降、全世界で1,1,1-トリクロロエタンの使用がほとんど中止されています。
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歴史です
モントリオール議定書によって、オゾン層を破壊する原因となる化合物の1つとして、1,1,1-トリクロロエタンが指定され、1996年から使用を禁止されました。その影響で大気中の1,1,1-トリクロロエタンの濃度は、寿命が5年と比較的短いため、急速に減少しています。
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接触アレルゲン
Trichloroethane is a solvent that has wide applications
in industry, such as for cold type metal cleaning and in
cleaning plastic molds. It is mainly an irritant, but can
also provoke allergic contact dermatitis.
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特徴
図. 1,1,2-トリクロロエタンの基本情報
1,1,2-トリクロロエタンは、三塩化ビニルとも呼ばれます。融点は−6°C、沸点は114°Cであり、分子量は133.40、密度は1.44g/cm3です。常温で無色の液体で、甘い香りを有し、示性式はC2H3Cl3です。
中枢神経抑制作用を持つため、吸引すると頭痛や吐き気などの症状を発症します。労働安全衛生法により危険有害物に指定されている他、PRTR法で「第一種指定化学物質」、労働基準法で「疾病気化学物質」に指定されています。
1,1,2-トリクロロエタンは、1,1,1-トリクロロエタンとは異なり、オゾン層破壊物質に指定されていません。そのため現在でも、有機溶媒として使用されており、1,1-の合成中間体としても知られています。
参考文献