製造
まず原料繊維を製造し、これを200ないし300℃の空気中でゆっくり加熱する。PAN系繊維ではこれを前処理、ピッチ系では不融化処理とよぶ。ともに空気による軽い酸化処理であり、酸化によって分子間架橋がおこり耐熱性が向上し、次の焼成工程の際の溶融防止などの役割を果たす。焼成処理で炭化に続いて黒鉛化がおこる。黒鉛化が十分に進んだ高性能炭素繊維は比重が小さく(PAN系で1.76~1.91、ピッチ系では2.0~2.2)、引張り強さや弾性率が大きい。これらの値をその比重で割り算した比強度や比弾性率が金属に比べて著しく高いことが炭素繊維の特徴である。実際の使用にあたっては、連続繊維はPAN系で直径約7マイクロメートル(μm。1ミリメートルの1000分の1)、ピッチ系で約10マイクロメートルの単繊維(フィラメント)を数千本束ねたヤーン(単糸)の形で供給される。
PAN系は炭素化の収率が40~50%と低いのに対し、ピッチ系は85~90%と高いのが特徴である。また繊維自体についてはピッチ系がPAN系に比べて圧縮強度がすこし低いといわれている。価格は収率の相違などからピッチ系のほうがすこし安価である。[垣内 弘]