-
外観
灰白~黒色, 粉末
-
性質
硫化銀は灰色がかった黒色の粉末です。水、希塩酸、アンモニア水には溶けにくく、濃硫酸や濃硝酸、シアン化カリウム水溶液に溶けます。密度 7.23 g/cm3 、モース硬度2.3です。
硫化銀の薄膜は、可視光に対して光電効果を示すことが確認されています。光電効果とは物質に光を当てた時に電子を放出したり電流が流れたりする現象です。硫化銀は光によって分解しやすい性質 (感光性) があるので、必ず褐色ビンで保存しなくてはなりません。銀の化合物が感光性を示す理由としては、銀イオンが1価であり結合が切れやすいこと、銀は電気伝導性が高いので、光で生成した電子と正孔が分離しやすいことなどが挙げられます。
硫化銀の融点は845℃ですが、加熱すると二酸化硫黄を発生させながら熔けます。
-
溶解性
水に不溶。水に不溶、硝酸、濃硫酸及びシアン化カリウム溶液に可溶、希塩酸、アンモニア水及びチオ硫酸ナトリウム溶液に不溶。濃厚硫化アルカリ溶液で赤色結晶性の複硫化物を生ずる。熱硝酸に溶ける。
-
解説
Ag2S(247.80).硫黄と銀の化合物。化学式 Ag2S 黒い粉末または灰黒色の結晶。銀器の表面が空気中の硫黄や硫黄化合物に触れると硫化銀を生じ暗黒色になる。天然には,輝銀鉱または針銀鉱として産出する.銀の可溶性塩の水溶液に硫化水素を通すか,または窒素中,250 ℃ で銀と硫黄とを直接反応させると得られる.黒色の粉末.α形とβ形が知られている.α形は高温で安定であり,立方晶系,赤銅鉱型構造.β形は斜方晶系.転移点175 ℃.銀塩のなかでもっとも水に不溶性で,溶解度1.8×10-17 mol L-1 である.濃硫酸,硝酸,シアン化カリウム水溶液に溶ける.銀製品の表面が黒くなるのは空気中のH2SやSO2と反応して硫化銀を生じるためである.銀の製造原料,陶磁器の金属細工(硫化銀粘土),写真のセピア調色に用いられる.森北出版「化学辞典(第2版)
-
構造
硫化銀の結晶形態としてはα型、β型、γ型の3種類が知られています。
α型は体心立方構造の結晶で、アーゲンタイト (輝銀鉱) と呼ばれています。この形態は180℃以上で安定で、179℃以下ではβ型に遷移します。ただし、外形はアーゲンタイトの結晶系に保たれることが多いです。
β型はアカンサイト (針銀鉱) と呼ばれています。結晶構造は単斜晶系で、通常は針状結晶もしくは四角形状、立方体状結晶の鉱物として産出されます。γ型の結晶構造は面心立方で、586 °C 以上で安定な形状です。自然には産出しません。
-
製造
硫化銀は天然には、アーゲンタイト (輝銀鉱) として産出します。銀の単体を硫化水素と反応させると硫化銀が生じます。また、銀イオンを含む水溶液に硫化水素を加えると硫化銀の黒色沈殿が生じます。
-
特徴
高温形はCu2O型(11)構造
-
化学的特性
Grayish-black powder.Soluble in concentrated
sulfuric and nitric acids; insoluble in water.
-
物理的性質
Physical Properties Grayish-black orthogonal crystals or powder; density 7.23 g/cm3; Moh’s hardness 2.3; melts at 825°C; insoluble in water; soluble in nitric and sulfuric acids.
-
使用
Inlaying in niello metalwork, ceramics.
-
一般的な説明
SRM 8553_cert SRM 8553 _SDS
-
使用用途
硫化銀は、銀の製造原料や陶磁器の金属細工 (硫化銀粘土) に用いられています。
銀の主な使用用途は工業製品です。かつては写真フィルムが代表的な工業製品でしたが、デジタルカメラの普及により減少の一途をたどっています。今日では、プラズマディスプレイパネルや太陽光発電における送電線に利用されています。
このほか、硫化銀は、写真のセピア色の調色にも用いられています。写真フィルムの銀粒子を硫化イオンと反応させることにより硫化銀が生じます。この硫化銀により、セピア色の写真に仕上がります。
-
腐食
銀は酸化しにくい物質ですが、銀製品は時間の経過とともに表面が黒く変色することがあります。これは表面の銀が空気中の硫化水素と反応して硫化銀が生成するためです。
銀食器など銀製品の黒ずみをきれいに落とす方法として、アルミニウムと食塩を使う方法があります。鍋に水を入れて沸騰させ、なべの底にアルミホイルを敷いて、食塩を溶かします。その後、黒ずみが付着した銀製品を鍋の中に入れ五分間程度煮ます。
この方法はアルミニウムが銀よりイオン化傾向が高いことを利用したものです。そのため、硫化銀は銀に還元され、アルミニウムと硫黄が反応して硫化アルミニウムが生成されます。
-
安全性情報
硫化銀は強い酸と接触すると、非常に有毒な可燃性ガスである硫化水素が発生するため、取り扱いには注意が必要です。さらに、金属ハロゲン化物と混合すると、衝撃、熱、摩擦に敏感な爆発性混合物となりますので、厳重に取り扱う必要があります。
また、硫化銀を空気中で加熱すると、二酸化硫黄と酸化銀が生成します。二酸化硫黄は、体内に入ると呼吸器系に影響を与え、せきや気管支炎、気管支喘息などの症状を引き起こすことがあります。そのため、硫化銀を加熱する場合には、適切な換気を行い、呼吸器の保護具を着用するなど、安全に取り扱うように注意が必要です。
-
参考文献
A.J. Frueh, Jr., Z. Krist., 110, 136 (1958), DOI: 10.1524/zkri.1958.110.1-6.136.