解説
コショウ科(APG分類:コショウ科)の常緑藤本(とうほん)(つる植物)。インド南部のトラバンコール地方原産で、香辛料として古くから栽培されている。つるは木質化し、膨れた節があり、7~8メートル伸び、下位の節から気根を出して他物に絡みつく。葉は節に互生し、卵形、革質で長さ10~20センチメートル。葉と対(つい)のところに約10センチメートルの花穂がつき、多数の白色小花が群がって開く。花は単性または両性。果実は5ミリメートルほどの球形で、15~17センチメートルに伸びた果穂に房になってつき、初め緑色でのちに赤く熟し、完熟すると黒ずんだ色に変わる。 果実は成熟度(緑、赤、黒)によって成分や利用目的が異なり、グリーンペパー、黒こしょう、白こしょうとに分けられる。グリーンペパーは緑色の果実を摘み取り、缶詰や瓶詰にして利用する。黒く熟す直前の果実を房ごと収穫し、これを熱湯に浸(つ)けてから莚(むしろ)に広げ、足で踏むか手でもんで柄を除き、日干しあるいは火力乾燥したものが黒こしょうである。果穂の大部分が赤く熟したときに摘み取り、堆積(たいせき)するか、柄を除いてから数日間流水に浸けるかして果皮を除き、灰褐色の種子だけにして水洗、乾燥したものが白こしょうである。機械を使って黒こしょうの果皮を除いて白こしょうをつくることもある。 コショウの刺激性成分はチャビシンで1~3%含まれ、香気成分は胡椒油という揮発性の精油で2%内外含まれ、辛味の成分はピペリンというアルカロイドで5~13%含まれている。これらの成分の4分の3は果皮に含まれるので、香りと辛味は黒こしょうが強く、白こしょうは上品な香りと柔らかい辛味をもっている。 繁殖は普通は挿木による。苗を本畑に植え、支柱に絡ませて育てる。2、3年目から収穫ができ、一年中収穫できるが、収穫後に乾燥させるため、真夏の雨のない季節が適期である。赤道を挟んで南·北緯20度の地域でよく生育する。主産地はかつてはインドであったが、2000年以降、ベトナムでの生産量が増え、世界の3分の1を生産する。インド、ブラジル、インドネシア、マレーシア、スリランカなども産地である。 こしょうは、ヨーロッパでは紀元前400年ころから知られた香辛料の一つで、176年、アレクサンドリアでのこしょうの取引にローマ帝国が関税をかけたという記録がある。古代ローマ帝国の時代、産地インドから、海路と陸路を2年がかりでヨーロッパに運ばれ、こしょう粒の末端価格は同じ目方の銀と同じ価格であったといわれる。いかにこしょうが貴重品であったかがうかがわれる。15世紀ころからのヨーロッパの東方進出、植民地争奪戦争の一つの原因は、こしょう貿易の利益の独占にあったといわれ、こしょうは世界史を揺り動かす原動力にもなった。[星川清親 2018年7月20日]利用こしょうは、香辛味のほかに防腐効果もあるので、利用価値は非常に高い。「塩·こしょう」といわれるように、世界中の家庭の台所の常備品になっている。さまざまな料理に広く用いられるが、とくにソーセージの製造に不可欠とされる。粉にひいてあるものと、粒のままのもの(ホール)が市販されている。使用するつど粒をひいて用いたほうが、香りも優れ辛味の効きもよい。ピクルスや煮込み料理には粒のまま用いることもある。料理の種類や好みによって、黒こしょうと白こしょうを使い分けるとよい。グリーンペパーはステーキのソースやワイルドライス(アメリカマコモの果実)料理に入れる。近縁のインドナガコショウR. longum L.はロングペパーとよばれ、香りが強く甘味もあり、インドカレーの香辛料とする。薬用としては辛味性健胃薬として用いる。駆風、強精の効もあるという。[星川清親 2018年7月20日][参照項目] | 香料貿易 "黒こしょう "白こしょう "グリーンペパー
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